2015年12月13日

シアターキューブリック「ひたちなか海浜鉄道スリーナイン」〜約束された1枚のきっぷ

2015年11月15日(日)。「第3便」で観劇。


ひたちなか999劇評.jpg



前回に引き続き、劇評らしきものを書いてみます。
とはいえ、前回と同じシアターキューブリックの「鉄道演劇」で、場所を変えて、茨城県のひたちなか海浜鉄道で上演された「ひたちなか海浜鉄道スリーナイン」です。

きっぷを買わないと列車には乗れないことは、皆さん、常識としてお持ちかと。
最近は、ICカードで「ピッ」の方が常識かもしれませんが。
でも、法律では、きっぷを買わないと鉄道には乗れないとなっています。
ICカードの話をしはじめるとややこしいのですが、あれは法律上の特例ということで、ご理解ください。

乗車券を買うと、券面には「東京都区内から大阪市内ゆき」「8750円」「4日間有効」なんて文字が並んでいます。特急券だと「11号車3番A席」なんて、指定された座席の番号なぞも書いてあります。

要は。

きっぷを買うということは、鉄道側が示した条件、値段を納得し。
その上で、所定の運賃・料金を支払い、きっぷに書いてある条件で運んでもらうという「約束」を結んだということなんです。

東京駅の窓口で「大阪まで」と言って8750円を払うと、鉄道会社は「大阪まで、あなたをこれこれの条件で運ぶことを約束します」という証明として、乗車券を発行します。
新幹線の「のぞみ」に乗りたければ、5700円追加して、特急券を買えば乗せてくれます。この場合、座席を指定することも条件に含まれていますので、「じゃあ、この席を使ってください。この日のこの列車のこの区間では、あなたの専用となります」と、約束してくれるのです。

きっぷとは。
約束の証明。

この作品では、鉄道との約束を破ってしまった女性、美波が登場します。

意図せざる行動の結果とはいえ、彼女は約束を破った報いを受けなければなりませんでした。

約束とは、時には無慈悲なものです。
現実の鉄道でも、不正乗車に対しては厳しい罰則が待ち構えています。
阿字ヶ浦に置き去りにされた浜子は、きっぷを持っていなかったのでしょうか。

きっぷには、出発駅も記されていれば、目的地の駅も記されています。
それもまた、最初からの約束。
目的地に着けば、列車を降りなければなりません。
そこから先へは行けません。
それもまた、最初からの約束。

「ことでんスリーナイン」では車掌だった勝太が、実は何者であったかが、この作品で明らかになります。
そして、彼もまた、きっぷの約束に縛られ、ひたちなか海浜鉄道湊線を旅します。
懐かしい人に会うために。

きっぷを使えば、懐かしい人に会えます。
きっぷを使えば、いつかは別れがきます。
約束を守れば、いずれ別れがくるのです。
きっぷを使い始めた瞬間から、それはわかりきったこと。

ことでんで車掌を務めていた勝太も、鉄道に関わる人間。
そのことを十分すぎるぐらい十分に承知しています。

でも、別れはそう簡単ではありません。

勝太は、美波がきっぷの約束を破ってしまったことを知ります。
それゆえ、懐かしい男性、望の前から、永遠に姿を消す結果となったことも知ります。
美波のきっぷは黒く焦げ、何が書いてあったのか、もうわからなくなっていました。

けれど、きっぷの約束を破らないと、懐かしい人に自分が誰であるか、伝えることはできません。
勝太は、この矛盾に苦しみます。

ただし、鉄道と乗客との約束は完全に無慈悲ではありません。
きっぷの約束は時に、情け深い一面も見せます。

勝太の妻だった遥佳は、金上で降りるはずでした。
遥佳が持つきっぷは、金上までだったはずです。
しかし、カツヒコと仮の名を名乗る勝太との時間を選び、次の日工前まで、乗り越します。
鉄道の秩序を守る者であるはずの「ひたちなか海浜鉄道スリーナイン」の車掌は、それを黙って認めます。

「きっぷとは何か」

それが、この作品を解く鍵です。

ふだん、何気なく買い、何気なく使っている「きっぷ」。
すべては、1枚のきっぷから始まり、1枚のきっぷを使い切った時に終わるのです。

いつかはやってくる別れ。

それもまた、「約束」なのでしょう。




posted by twins at 14:31| 神奈川 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ●文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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